会社は、周囲の建物が自社ビルより高くならないよう、ずいぶんと手を尽くしてきた。建物の東側には公園があり、会社の働きかけによって、そこには子どもの遊び場と球技場が造られていた。
その球技場に、トニー・トロメイは赤と白のサーカスのテントを見つけた。
サーカスには行ったことがある。ただ、ずいぶん昔のことだった。
トニー・トロメイは、それがいつだったか思い出そうとした。あのときは弟も一緒だった。そして弟が死んでから、もう四十七年になる。
サーカスへ行ったのは、五十四年前だった。
母は涙を流して笑っていた。
母があんなふうに笑ったことは、ほかに一度でもあっただろうか。
トニー・トロメイは会社に入り、ロビーを横切った。守衛たち一人ひとりを名前で呼んで挨拶すると、彼らは親しげに微笑み返した。この何十年もの間、毎朝そうしてきたように。
役員の中で、彼はいつも誰より早く出社した。そして一人で役員階へ上がった。
その階全体の業務を取り仕切るアルマと、長年彼の秘書を務めてきたマリアは、すでに仕事を始めていた。
トニーは少し考えなければならなかった。
マリアが来たのは、新しい社屋が完成した翌年だった――十八年前だ。
トニー・トロメイは自分の部屋へ入った。
大きな赤みがかった机を眺めた。
その机を見るたび、彼はよく母の話を思い出した。母は十二歳になるまで四人の姉妹と同じベッドで眠っていた。一番上の姉が家を出るまで、五人で一つのベッドを分け合っていたのだ。
トニー・トロメイの机は、母が子どものころ眠っていたベッドより二平方メートルも大きかった。
机の上には、彼が実際にはほとんど使ったことのないコンピューター、デスクパッド、それにフランス製の、百年近く前のペン立てがあった。
写真も置かれていた。
父。
まるで今にも、フクロウが口から吐き出すような塊を吐こうとしているかのような顔をしていた。写真が撮られたのは、胃癌と診断される数か月前だった。
母。
いつものように大きな目をして、真面目な顔をしていた。首には真珠のネックレス。視線は、これもいつものように、どこか遠く、何かの向こうへ向けられていた。
そして弟。
弟は美しい男だった。母の整った顔立ち、父の大きな口、そして名も知らぬ祖先の誰かから受け継いだ、人を惹きつける笑い方を持っていた。
その写真が撮られた数年後、弟は飛行機で森に突っ込んだ。何の意味もないような土地で、誰も知らないような飛行場の向こう側の森だった。
トニー・トロメイは写真をしばらく眺め、それから一枚ずつ鞄にしまった。
部屋の隅へ行き、首を少し回して西を見た。
自宅そのものは見えなかったが、同じ建物の北端は見えた。
合併以来、彼はずっとそこに住んでいた。
最初は父と母と弟、それに家政婦のマーガレットと。
次は父と母とマーガレットと。
その次は父と家政婦のジョアンと。
今はジョアンと二人で暮らしている。
それからトニー・トロメイは東を見た。
黄色い塔から指三本分ほど離れたところに、緑色の瓦屋根が見えた――あるいは、見えるような気がしただけかもしれない。
かつて、彼らの会社があった場所だった。
人生の最初の数年間を、彼はあの緑の屋根の下で過ごした。
四階建てのその建物には、祖母のジュリア、フランコ叔父、それぞれの家族が暮らしていた。
ハンサムな叔父、フランコベッロは祖父の故郷へ戻り、自分の会社の持分を父に売った。
その話を思い出すたび、父は笑ったものだった。
「色男のフランコめ、あのクソ道化が! 会社の半分を俺に売りやがった。ブドウ畑ひとつと、この辺じゃビルのワンフロアすら買えないような金でな!」
トニー・トロメイは北を見た。
川の向こう、発電所の煙突から親指一本分ほど東へ行ったところ――ここからはぎりぎり見えない場所に――墓地があった。
そこにある白い大理石の家の中に、両親の骨が眠っていた。
トニー・トロメイには、それにいったい何の意味があるのか、どうしても分からなかった。
だが、それが父の望みだった。
故郷から運んできた石で、小さな白い家を建てたのだ。
母が子どものころ暮らしていた家よりも大きな家を。
たった二人の死者のために。
まったく、何の道理もない。
Vastaa